イノベーティブな組織と日本型組織のリーダーシップの差とは?
山口周さんの「世界で最もイノベーティブな組織の作り方」からリーダーシップについての学びがあったので、書籍の一部を要約。
最適なリーダーシップは文脈で決まる
リーダーシップは書籍、あるいは講演会などでよく扱われるテーマですが、何が自分にとって正しいのか分からない。一体リーダーシップとは何なのか?と思うことも多いのではないでしょうか。
そのように感じることが多いのは、どのような文脈でも通用する「普遍的な原理」としてリーダーシップを捉えているからだと、この書籍には書いてあります。当たり前のことではあるのですが、改めての気付きでした。
『リーダーシップというのは、「文脈=コンテキスト」に照らし合わせてみないと有効性の議論ができない大変相対的な概念で、チームメンバーの能力レベルや組織の置かれた状況が違えば、有効なリーダーシップのあり方も変わる。』と記載があります。
たとえば、優秀で動機付けされた部下が多数存在する組織では、「ビジョンだけ示して任せる」というリーダーシのあり方が有効である一方、未熟な部下が多く、組織が危機的状況にあるのであれば「指示命令と信賞必罰」によるリーダーシップが望まれるでしょう。
リーダーシップとは、「リーダーとフォロワーの関係性」あるいは「リーダーをとりまく周囲の環境との関係性」の中で成立する概念。「リーダーの属性」として独立する概念ではない。と捉えると整理しやすいのではないかと思います。
文脈の中で捉えた6つのリーダーシップスタイル
【6つのリーダーシップスタイル】
・指示命令型(部下の服従)=明確な指示を与える
・ビジョン型(長期視点の提供)=方向性や目標を示す
・関係重視型(調和の形成)=人間関係に配慮する
・民主型(情報の吸い上げ)=意見を収集し、意志決定の際に衆知を結集させる
・率先垂範型(模範の提示)=仕事の進め方を行動で示す
・育成型(能力の拡大)=多少時間がかかっても部下の成長を優先する
イノベーションを起こすリーダーとは?
状況によってリーダーシップのスタイルがかわる。それを捉えながら、イノベーティブな組織のリーダーはどのようなリーダーシップスタイルを発揮しているのか?をみていきたいと思います。
ヘイグループの調査では、「フォーチュン500」の中でも「最もイノベーティブ」であると考えられる企業において発揮されているリーダーシップスタイルは 、「ビジョン型」が63%と最も高く、「率先垂範型」が42%と最も低くなっています。
これは、組織の管理職が、 目指すべきゴールを明確化している一方、日々の業務レベルへの介入は最小限に留めながら組織を率いていることを示唆しています。
一方、日本企業の平均を見ると、「率先垂範型」が59%最も高く、「ビジョン型」が36%と最も低くなっており、先述した「最もイノベーティブな組織」とは真逆のリーダーシップスタイルを示していることがわかります。
これは、組織全体の向かうべき方向性や達成すべきゴールを管理職が明確化せず、日々の業務に介入することで組織を回していることを示唆しています。
将来の行き先を示すのがリーダーの仕事
イノベーションを起こす組織では、リーダーが目指すべき方向を指し示しているケースが多いことが分かりました。
ビジョンに求められる最も重要なポイントとは?
それは「共感できる」ということです。リーダーの仕事とは究極的に「ここではないどこか」を指し示し、そこに向けてフォロワーをリードしていくとだということ。
「ここではないどこか」へ、フォロワーを駆動させるために必要になるものが「共感」です。自分も一緒にそこへ行きたい、そのために自分の能力を捧げたいと心の底から思うこと、つまり「フォロワーシップ」が生まれることで初めて、それと対になるリーダーシップが発現するのです。
では、どのようにすれば「共感」を獲得できるビジョンを打ち出せるのでしょうか? 歴史上、多くの人を巻きこんで牽引することに成功した営みには、ビジョンに関する三つっの構成要素が存在しています。
それはすなわち「Where」「Why」「How」といつの要素です。
喚起力のある「Where」を提示する
共感できるビジョンに必要な三要素のひとつが「Where」になります。
「Where」とはつまり、「ここではないどこか」を明示的に見せるということです。
日本企業が示すビジョン はこの点で二つの過ちを犯しているとのことです。
ひとつは、過度に抽象的なビジョンを設定してしまうという過ち、
ふたつ目は、過度に定量化されたビジョンを設定してしまう過ちです。
共感できる「Why」を示す
よいビジョンに求められる次の要件が、共感できる「Why」です。
「ここではないどこか=Where」が示せたとして、わざわざ今いる「ここ」から「ここではないどこか」に移動するには、その移動を合理化し納得できる理由が必要です。
なぜなら、ほとんどすべての人は、長くいればいるほど「ここ」に対して様々な愛着やノスタルジーを覚えているからです。愛着のある「ここ」を捨て、わぎわざ未知の荒野に踏み出して「ここではないどこか」を目指すには、どうしても強く共感できる「理由」が必要です。
しかし、現在の日本においてこの要件を満たすビジョンを打ち出せている企業は、筆者が知る限りほとんどありません。共感できる理由を示されないまま、組織内の権力に基づく無理強いの行軍を強いられているのが今の日本企業で働く人々の状況なのです。
納得できる「How」を具体化する
よいビジョンに求められる三つ目の要件が、「どのようにしてそれを実現するのか 」を示す基本方針=「HOW」です。
どこに行くのか?=「Where」、なぜ行くのか?=「Why」を示すだけでは、ビジョンの実現に向けた行動は駆動されません。なぜなら、人間は実現に対して懐疑的な営みには全力を出せないからです。詳細な実行計画ではなくとも、少なくとも「こうやったらたしかにうまくいきそうだ」というパースペクティブがあって初めて、エネルギーと正しい行動が誘導されます。
ところが、この点についてもほとんどの日本企業はビジョン(らしきもの)を出すだけ出して実現方法の考察は現場にお任せという状況になっています。
最後に「よいビジョン」の例
これまで、よいビジョンとは共感できるものであることと、共感を形成するためには「Where」「Why」「How」の三要素が必要であることを説明してきました。
ここでは実際に多くの人の心を捉え、行動を変え、結果的に歴史を動かすことになったプロジェクトや組織のビジョンの実例から、上記の三要素の打ち出され方につぃて確認してみましょう。
ケネディが1961年に打ち出したアポロ計画を取り上げてみました。
アポロ計画において、ケネディは主にスピーチという形で、関係者との継続的なコミュニケーションを取っています。
■Where
1960年代に人類を月に立たせる
■Why
現在の人類が挑戦しうるミッションの中で最も困難なものであり、であるがゆえにこの計画の遂行は、アメリカおよび人類にとって新しい知識と発展をもたらす
■How
民間、政府を問わず、領域横断的にアメリカの科学技術と頭脳を総動員して最高レベルの人材、材、体制をととのえる
パイオニアスピリットを刺激しつつ極めて簡潔にポイントを押さえていますね。ちなみに、アポロ計画が発表される前、NASA職員の多くは、宇宙計画の縮小を覚悟していたと言われています。
そのような状況下でこのスピーチを聞いたときの、彼らの驚きと興奮をぜひ想像してみてください。歴史上、社会を動かすことになったムーブメントは、明示的か非明示的かを問わず、上記の枠組みに沿って人を共感させる理由をはらんでいることがわかります。